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【看護学生のためのパソコン活用法】

病院で携帯電話を使っちゃいけないってホントなの?

実習で病院に行くと、携帯電話の電源は切れと口酸っぱく言われれます。
それはもう常識中の常識って感じで、どの学生も一応ちゃんと守っているようです。
でも、なんで病院で携帯電話を使っちゃいけないんでしょうね? 考えたことありますか?
「だって、そりゃペースメーカーとか、いろんな機械とかに影響するからでしょ?」
確かにそのとおりです。

でも、今日はあえて、それってホントなのかな? という話をしたいと思います。


 携帯電話というのは、要するに無線機です。電波を出しているわけですね。その電波が他の電子機器に影響を与えるというのは、なんとなく直感的にも分かってもらえると思います。
 確かに携帯電話など無線機でテレビの前で電波を出すと画面が揺らぎますし、ラジオの場合、まったく受信不能状態になります。
 でも考えてみると、ちょっとおかしなことがいっぱいあります。たとえば、身の回りで電波を発する機械って、携帯電話だけなんでしょうか?
 ペースメーカーを使っている人のことを考えてみてください。そういう人の場合、障害者に認定されていますから、タクシー券というのが国から支給されています。病院へ通うのに無料でタクシーが使えるようになっています。
 ペースメーカー使用者はタクシーの利用率が高い。で、タクシーと言えば無線機がついてますよね? 車のルーフのど真ん中にアンテナが立っているのをご存じだと思います。つまり、ペースメーカーをつけた人の、すぐ真上で電波をまき散らしていることになります。ちなみにタクシー業務無線の出力は5W。対して携帯電話は0.8W程度です。タクシーの方が5倍近く高出力です。
 でも、ペースメーカーを利用している人が、タクシーに乗って死んだというニュースは聞いたことがありません。それに、なにより国がわざわざタクシー券を支給しているのだから、「危険はない」ということなのでしょう。
まあ、実際は、アンテナの利得とか周波数の違い、電波の形式の違い、それに車のルーフによる遮蔽があるので、単純な比較はできないのですが、まずこの点をひとつおさえておいてください。


 次にお話しするのは、もっと身近な電子レンジ。電子レンジはもう家庭の必需品ですよね。病院のなかでも、ラウンジなどに置いてあって、入院患者が自由に使えるようにしているところもあります。
 でも、じつはこれがとっても強力な電波発生源なのです。電子レンジは、高い周波数の電波を使って、食材のなかの水分子を揺さぶって、摩擦熱を生じさせることで食品を温めています。電子レンジの性能を表すのに、よく何百ワットっていいかたしますよね。それがまさしく電磁波の出力のこと。
 携帯電話が1ワット弱に対して、タクシーが5W。で、電子レンジとなったら何百ワットです。桁違いですよね。
 タクシーの場合は、近いとはいえ頭上のアンテナですけど、電子レンジは手で操作するから、電波の発生源からほんの数十センチの場所に立たざるを得ない。しかも携帯電話の何百倍もの出力なんですから、とんでもないことです。
 そこで、電子レンジの扉のガラス窓部分には、電磁波をシールドするために金属のメッシュが入っているわけですが、それとて電磁波を100%カットできるわけもなく、かなり強力な電磁波が漏れだしています。
 むかしなんかのテレビ番組でやってましたが、動作している電子レンジの前に蛍光灯を持っていくと、勝手に発光したりするらしいです。
 細かい話はともかく、携帯電話以上に危険なものが日常に溢れているということはわかってもらえたでしょうか。



 結論から言いますと、携帯電話は、いま世間で言われているほど危険なものではないと私は思っています。携帯電話以上に危険な電子レンジのことがまったく触れられず、携帯電話だけがやり玉にあがるというのは、おかしな話です。(電子レンジに関しては、実際にペースメーカーを植え込まれた患者さんが、操作中に倒れたということがあったようです(1

 携帯電話は、急激な普及と、あまりのマナーの悪さと相まって、とくにクローズアップされてきたのでしょう。それはわかるのですが、マナー改善のために、「ペースメーカー使用者」というのを盾にとって、詭弁を使っているようでなんだか釈然としません。
 携帯電話がこれだけ普及しているなかで、電車に乗っている間は電源を切れというのは、社会情勢にそぐわない無理な要求と言ってもいいと思います。もし本当にさしせまった生命の危険があるなら、そうした社会情勢を踏まえて、電鉄会社は携帯電話使用不可車両を用意するなど、しっかりとした対応をすべきです。(そういえば、痴漢対策の女性専用車両なんてものが試されたことがありましたね)「携帯の電源を切れ」というおざなりなアナウンスだけで済ませているのは、携帯電話を危険視してないことの現れなのでしょう。いざというときの責任回避のためにフェイクでアナウンスしているだけというのがミエミエです。
 実際ペースメーカを装着した人が携帯電話を使えないかというとそんなことはなく、知り合いの女性はバリバリに使ってます。実際に人体に植え込まれたペースメーカを使った実験は1997年のHayesの報告(2が知られています。そこでは、

"Cellular telephones can interfere with the function of implanted cardiac pacemakers. However, when telephones are placed over the ear, the normal position, this interference does not pose a health risk."

と結論し、ペースメーカー使用者が通常の方法で使用して問題はないとしています。このへんなんか、かなり「目から鱗」に感じる人が多いと思います。病院関係者もあまり知らないんじゃないのかな。

 病院のなかでも、たとえば寝たきりの人だからこそ携帯電話が、有用なコミュニケーションツールとして使えるんじゃないでしょうか。病院実習に行っていると思うんですが、自分の意志で動くことができない人にこそ、ホントの意味で携帯電話が必要なんじゃないのかなって感じます。
 日本国内の過敏とも思える対応はすべて、郵政省が1997年4月に出した「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」というのに基づいています。これはペースメーカを装着した人がいる家では、屋内ではケイタイの電源は切るようにとまで書かれていて、現実社会を一切無視した内容となっています。事なかれ主義というんでしょうか。まさにくさいものには蓋をしろ的な発想で作られたガイドラインと言えます。それを無条件に支配されているのが日本社会です。
 実際の所、技術的な話をすれば、携帯電話が医療機器に与える影響はほとんどないと言われています。「人工呼吸器の本体のなかに携帯電話を入れたり、輸液ポンプのカバーを外して、その機能の中央部に直接携帯電話を置いたりすることで、影響が出る程度である」(3という意見もあります。
 実際に病院のなかではページングシステム(ポケベル)というPHSとおなじ電波を使うシステムが使われていますし、職員連絡用のPHS電話を持たされている婦長さんも多いはず。心電図モニターも電波でナースステーションへ飛ばしています。最近ではコンピュータネットワークのために無線LANが導入されることもあるようです。携帯電話やPHSを使わなくても、病院内に電波が飛び交っているのは事実です。
 さらに最近では、院内で部分的に携帯電話を解禁する病院も出てきています。例えばNTT東日本関東病院(4 (5です。さらに国立小児病院麻酔集中治療科医長の宮坂勝之氏は「携帯電話の中でPHSとデジタル化された機種は出力が少なく、病院内での通常の使用には影響しません」とし、「麻酔科があらかじめ携帯電話で影響がないことを確認した機器だけを使用しており、手術室や集中治療病棟内では、医療スタッフは携帯電話の電源を切る必要がないことにしています」(5と書いています。手術室内での携帯電話使用を認める病院まであるんですね。


 以上のように電子レンジや他の無線機器を無視して、携帯電話だけを議論するのは納得できませんし、研究データや実績からも、携帯電話は一般に思われているほど危険なものではないと言えます。
 私は今まで学校の看護学の講義や実習の場で、携帯電話の活用について触れると、「なにいってんの?」と教員や学生指導看護師、学生たちからあきれた顔で言われ続けてきました。携帯電話=危険(院内禁止)とステレオタイプに信じ込んでいて、それ以上のことを考えたことはなかったようです。
 しかしそのとらわれから開放されて改めて考えてみると、携帯電話ほど院内だからこそ活用すべき機器はないと思います。先にねたきりの人の場合に触れました。看護では寝たきりの人がいかに外界への興味を失わないかという点に気を遣います。ベッドから動けないから病棟の公衆電話を使うこともできない。面会者が少ない場合は看護師がこまめに声をかけるようにしたり、その具体策に頭を使うものです。で、そこでなぜ携帯電話という発想がでてこないのが不思議です。それが有用であるなら、障害となっている医療機器への影響を調査検討し、院内解禁を働きかけるのは看護職をおいて他にあり得ません。
 ナイチンゲールも言っていますが、治療の環境を整えるのは看護職の仕事。携帯電話が爆発的に普及し、携帯電話は人とのつながりの意味を変えるまでになってきました。「携帯依存症」という言葉もあるように、若い人を中心に携帯電話を手放すことは大きな不安・恐怖となっているのが昨今の事情です。携帯電話依存症というとなにか悪いことのようなイメージがありますが、これは文明によるコミュニケーション意識の変容でもあります。病院で携帯電話が取り上げられた入院患者はこれまでにない大きなストレスに曝されているともいえます。治療を妨げかねないそのストレスに着目するのは看護師の仕事です。



 看護の世界では、最近よくエビデンス(evidence:根拠)が問題とされますが、反対にいえば根拠がなく行われていることが多いことの現れなのでしょう。(たとえば剃毛の意義とか、注射前の消毒の必要性とか)
 携帯電話についてもまさにそういえます。患者から「なぜ入院中は携帯電話を使ったらいけないの?」と聞かれたらなんと答えますか? さらに「婦長さんが携帯電話を使っているのを見たんだけど?」と言われたらどうしましょう?
 「あれは病院用の特別な電話で安全なんです」なんて答えでお茶を濁してませんか? それは患者さんに対する欺きともいえます。あれは特別な電話でもなんでもなく、単なるPHS電話です。工学部出身者や関心が高い人だったらそんな説明では納得しません。出力の強い携帯電話についてはまだはっきりした定説までは至っていませんので保留としておきますが、PHSなら院内でふつうに使えます。それを制限するのは、マナーの問題だったり、携帯電話との区別が付きにくいからというのが本当の理由です。
 平成14年度版 情報通信白書によれば、全国の携帯電話普及率は54.7%。国民の半分は携帯電話を持っていることになります。さらに東京都ではなんと79.8%で、8割の人が携帯電話を活用しています。そうした現代事情を踏まえると、携帯が使えない病院は特殊な環境であると言えます。そのあたりを一度考えてみた方がいいんじゃないでしょうか。

などと言いつつも、実は私はいまだかつて携帯電話を持ったことがありません。大嫌いなんです...。学年人数86名中、ケイタイを持たないのはたった2人。その貴重なひとりです(笑)



参考:似ているようですが、携帯電話とPHSでは、電波の出力(空中線出力)が大きく異なります。携帯電話が0.8Wなのに対してPHSは10mWです。単位を揃えると800mW対10mWということになります。PHSは特定小電力システムと呼ばれ、おなじ規格の製品には、コードレスホンやパソコンの無線LANなどがあります。
 余談ですが、電波というのは想像以上に強力な力を秘めています。かつて米軍の整備士が航空機用レーダーの電波を直接浴びて死亡したことがあるそうです。オウム真理教が遺体消却に使った装置も、いってみれば強力な電子レンジのようなもの。携帯電話レベルでも、使い続けると目の水晶体が濁るという話もありますし、腫瘍発生率の問題もとりだたされています。アマチュア無線家の子供は女の子が多いというのも、よく聞く話です。(電磁波でY遺伝子が障害される?)



【引用文献】

  1. 宮沢勝之監修執筆:輸液にまつわる素朴なギモン、Expert Nurse vol.16 No.12 p.45-46、2000
  2. D.L.Hayes, Interference with cardiac pacemakers by cellular telephones, N Engl J Med., Vol.336(21), 1473-1479, 1997
  3. 1)とおなじ
  4. 山本友子:院内で携帯電話が使えるってホント!? 携帯電話の問題は電磁波よりマナー、ナースデータ、23巻1号、p.39-43、2002
  5. 宇田川廣美:院内で携帯端末を積極的に利用、Nursing Today、vol.16 no.13、p74-76、2001
  6. 1)と同じ

【参考文献】

  1. 厚生省薬務局:医療用具安全性情報 医療機器に対する電磁妨害について、医薬品副作用情報、No.136, 1996
  2. 総務省編:情報通信白書、平成14年版、p.350-351、ぎょうせい、2002
  3. クレイグ・ブロード(池央耿・高見浩訳):テクノストレス、新潮社、1984
  4. 朝羽通明:「携帯電話的人間」とは何か、宝島社、2001


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